リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「社内に戻すって、君島さんが言っていただろう?」
「ええ。なんでかなって、不思議だったんですけど。もしかして、社内システムの件と絡んでるんですか?」
「いや。アレはアレで別件だ。今日の午後は大変じゃないのか。アレも。他の部署のヤツも数名関わってるからな」
「大事になりそうですね」
「笹原部長と近藤部長で、きっちり仕切って、対応させるらしい」
「いいなあ。笹原さんと近藤さんに、仕事を教えてもらえるなんて。いいなあ。いいなあ」

心底、羨んでいるような、そんな明子の声につられてように、牧野もいいよなあと零す。

「俺も、ビシバシ扱かれてえなあ。いいよなあ。新人のころに戻りてえなあ」

明子には、それが嫌味ではなく、牧野の本心から出ている言葉だと判った。
毎日が叱られて褒められての繰り返しになるその時代が、もう、滅多なことでは叱っても褒めてもらえなくなった者たちから見れば、どれだけ羨ましいものなのか。
坂下や新藤たちもに気づいてほしいなあと、そんなことを明子は願ってしまう。

「吉田係長。客からな、ハズしてくれと言われちまったんだよ」

牧野が話を戻すように、ぼつりと、まるで事務連絡をするかのような単調な口振りで、そう切り出した。
その言葉に、松山が吉田に言い放った言葉を明子は思い出した。


-今の客先からもクレームが……
-リーダーが野木主任に……


あのときはあっさりと聞き流したが、なるほど、そういうことかと、明子は今になって理解したように小さく頷いた。

「あの人な。二度目がないんだよ、どこの客先行っても」
「二度目が、ない?」
「次にまた仕事の話が来ても、必ず、あの人はハズしてくれと言われちまうんだ、客に」

客って、よく見てるからな、こっちの仕事ぶり。
顔をしかめて、牧野も困った様子でこめかみあたりを人差し指で引っかくように掻いた。
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