リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「もう、二年くらい前から、本人が希望を出していたらしい」
なるほどと、明子もその言葉に納得したように頷いた。
牧野の言う技術部とは、システム開発作業に必要とされる、共通部品と呼ばれるソフトウェアの設計開発を行う部署である。
異なる環境下でも、問題なく動作することが求められるその開発作業には、経験豊富なプログラマーが必要とされる。
あらゆる状況を想定しての開発能力を求められるのだ。経験値の低い者では、到底、無理な作業だった。
十年以上に及ぶ実務経験と、ときには牧野ですら舌を巻く、高いプログラミング能力を持つ大塚に向いている部署だと、明子も思った。
「俺も今日、こっそりと君島さんから聞いて、知ったんだけどな。技術部のほうも、OKしているらしい。で、やっと、あのバカの言ってたことに合点がいったんだよ。余計な一言で、君島さんがやっと育ってた沼田を、また潰しちまったことに、あれも責任を感じてたらしい」
「あの大塚さんも、いつも間にか、大人になってたんですねえ」
「なあ。あれが、そんな殊勝なことを考えるなんてなあ。君島さん、マジで、すげえわ」
「ホントに。昔から人を育てるのが巧いって、いろんな人が言ってましたけどねえ。後輩潰しで有名だった大塚さんですら、そこまで改心させちゃうんですねえ」
「まったくだよ。で、改心したアレは、なんとか、自分が抜ける前に、また沼田を喋れるようにしていかねえとなって、そう考えたらしい」
「そのお心がけは、大変ご立派ですが、だからってこんなやり方しなくても……」
「俺もそう思う。その上、君島さんが小杉を引っ張ってたら、安心してとっとと異動できたのに、お前がかっさらっていくから、こんなことになっちまったんだって、怒鳴りやがったんだぜ、あのやろう。八つ当たりにもほどがあるぜ。まったく」
「……伝家の宝刀って、なんですか?」
そう言えばと、思い出したように明子は尋ねた。
岡本が楽しそうに笑いながら言っていたあの言葉に、なんとなく、いやな予感を明子は覚える。
そんな明子の心中など察しようともせず、牧野はさらりと言いのけた。
なるほどと、明子もその言葉に納得したように頷いた。
牧野の言う技術部とは、システム開発作業に必要とされる、共通部品と呼ばれるソフトウェアの設計開発を行う部署である。
異なる環境下でも、問題なく動作することが求められるその開発作業には、経験豊富なプログラマーが必要とされる。
あらゆる状況を想定しての開発能力を求められるのだ。経験値の低い者では、到底、無理な作業だった。
十年以上に及ぶ実務経験と、ときには牧野ですら舌を巻く、高いプログラミング能力を持つ大塚に向いている部署だと、明子も思った。
「俺も今日、こっそりと君島さんから聞いて、知ったんだけどな。技術部のほうも、OKしているらしい。で、やっと、あのバカの言ってたことに合点がいったんだよ。余計な一言で、君島さんがやっと育ってた沼田を、また潰しちまったことに、あれも責任を感じてたらしい」
「あの大塚さんも、いつも間にか、大人になってたんですねえ」
「なあ。あれが、そんな殊勝なことを考えるなんてなあ。君島さん、マジで、すげえわ」
「ホントに。昔から人を育てるのが巧いって、いろんな人が言ってましたけどねえ。後輩潰しで有名だった大塚さんですら、そこまで改心させちゃうんですねえ」
「まったくだよ。で、改心したアレは、なんとか、自分が抜ける前に、また沼田を喋れるようにしていかねえとなって、そう考えたらしい」
「そのお心がけは、大変ご立派ですが、だからってこんなやり方しなくても……」
「俺もそう思う。その上、君島さんが小杉を引っ張ってたら、安心してとっとと異動できたのに、お前がかっさらっていくから、こんなことになっちまったんだって、怒鳴りやがったんだぜ、あのやろう。八つ当たりにもほどがあるぜ。まったく」
「……伝家の宝刀って、なんですか?」
そう言えばと、思い出したように明子は尋ねた。
岡本が楽しそうに笑いながら言っていたあの言葉に、なんとなく、いやな予感を明子は覚える。
そんな明子の心中など察しようともせず、牧野はさらりと言いのけた。