リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「沼田は、あんまり大塚にいい感情持ってないからな。その沼田から聞いた話を、そのまま鵜呑みにしちまった俺も俺なんだけどな。まあ、自分のためっちゃ自分のためだしな。突き詰めれば、自分が気持ちよく異動するための地均しみたいなもんだ。議事録を潰したり、いい加減なことやって、君島さんを困らせようとしているようなことすりゃ、さすがの沼田も、ドカンと怒って、やる気になってくれるんじゃないかと、そう考えたらしい。そもそもの始まりは。まあ、本人から直にことの真相を聞かされたところで、俺には今もってさっぱり謎な行動だけどよ。他のやり方、考えやがれってんだ」
「それを、いつ知ったんですか。木曜ですか」
「おう。客先に行く前に、病院に寄ってな。お前の手柄なんぞにゃ、させねえぞって言いにいったら、なんか、思っていた反応と違ってな。おかしいなと」
「殴る前に、聞いてあげてほしかったですね」
「それは、成り行きだ。しょうがねえ」
「かわいそうですよ。もう。病気なのに」
「うるせえな。やっちまったもんはしょうがねえだろ。君島さんも、沼田から話を聞かされたときにはな、あのやろうと思ったんだそうだ。けど、様子を見てると、なんかあるなって思ったらしくて、入院するちょっと前に二人で話したらしい」
「ってことは、君島さんは、真相を知ってたんですよね? なんで、それを最初から話して」
「お前な。葬儀のことでバタバタしてる最中に、そんな長話ができるわけねえだろ。それでなくても、吉田係長の話を聞いて、君島さんも何事だって感じだってんだから。なにが起こっているのかが判らなくて、なんとなく、ざっくりとしか俺にも話せなかったらしい。で、俺は俺で、ざっくりと聞いた話を、今度は沼田から、ちょいとねじ曲がった方向でじっくりと聞いてまったからな」
「もうっ 危うく大塚さんまで、えいやーとーって」
「一応な、木曜に、小杉にこんな話をしちまったからな、ざまあみろ、わははって、指差して笑って話しておいた」
「牧野さんっ もうっ」

意地が悪すぎですよっと言いながら、明子は首を傾げた。
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