リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「でも、大塚さん、沼田くんがブレゼンしたって話したら、驚いてましたよ?」
「そりゃ、お前が仕切って、がっつり事を運んじまったと言ったほうが、あいつの受けるダメージでかいだろうと思って、沼田のことはなにも言わなかったからな」
「牧野さん。話ややこしくしたの、じつは牧野さんじゃないんですか、もう」

なんて人ですかっという明子に、牧野は反省の色など全く見せずに、売られた喧嘩を買ってやっただけだと嘯く。

「大塚も、もしかしたら、俺はアレに成敗されるのかって、ビビってたしな」
「ひどいっ ひどいですっ もう」

明子はやり場のない憤りをおにぎりにぶつけるように、がぶりと大きな口で噛み付いた。


(あ。塩昆布だ)
(これ好き)


明子は、噛み付いたあとに目を向けた。
牧野が仕込んだそれは、いい塩加減で、ご飯によくあっていた。
そこに脇からにょっきりと箸が伸びて、出てきた塩昆布をさらっていく。
突然のことに、明子はなにも対処できないまま、箸に摘まれた塩昆布を目で追っていくと、牧野がぱくりとそれを食べてしまった。
思考回路が停止した状態で、明子は牧野の顔を瞬きも忘れて魅入った。

「なんだよ?」
「……、昆布」
「食ったよ」
「あたしが、食べた昆布」
「ケチなこと言うなよ」

ぽわっと、顔に火がついたのが、明子は自分でも判った。
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