リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「てめっ なにしてやがるっ」

その行動に、目をくわっと見開き、また固まってしまった明子に変わって、すかさず牧野が眉をキリキリと吊り上げて立ち上がり、島野を怒鳴りつけた。

「なにって。牧野がしたことと、同じことをしただけだろ」

なにか文句があるのかと、しれっとした顔で飄々と言う島野に、牧野は地団駄を踏んで悔しがる子どものように喚いた。

「なにが同じだっ 俺は昆布を」
「小杉くんが食べたあとのな」
「ああっ?! …、あー、そうか」

ようやく、なにかに思い至ったのか、牧野はバツが悪そうな顔で怒鳴り声を引っ込め、どすんと座り込んだ。
別に、ただ、食べたかっただけだしと、尻つぼみでごにょごにょと反論するが、明子の真っ赤なった顔を思い出すと、バツの悪さは隠せなかったらしい。照れくさそうに、耳の付け根を掻いた。
そんな牧野を鼻で笑った島野は、明子の背後に回して伸ばした手で、牧野を小突いた。

「いきなり、誰が見てるかも判らない職場で、女性に対して、あんなデリカシーのないことをするんじゃない。せめて、一言、断るもんだろ。可哀相に。驚いて固まっていただろう。そういうことは、プライベートの場でやれ」

いつまでもお子さまだな、お前は。
しようがないやつだというように牧野を見て、それから、手にしたおにぎりを机の上に広げてあるアルミホイルの上に置いた島野は、まだ固まってままの明子に楽しそうに笑いかけた。
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