リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「まだ、食べるのか、腹ペコ小僧。お前のために買ってきたわけじゃないんだけどな」

そういう口ぶりとは裏腹に、サラダを除けば牧野が喜びそうな惣菜ばかりだと、ランチボックスの中身を見ながら明子は思った。
どう考えても、最終的には牧野の口に入ることを前提にしたチョイスとしか思えなかった。


(あんがい、これで、仲がいいのね。この二人も)
(子どものケンカみたいな言い合いとか、するんだけど)
(というか、牧野さんが一方的に、怒ったり喚いたり、してるだけかな?)
(いや、でも、島野さんも牧野さん相手だと、手の掛かる弟とじゃれてるお兄さんってモードになってるかな?)
(変な人たちだなあ)


くすりと、忍び笑いをこぼしつつ、明子も牧野の食欲に驚きの声を上げる。

「ホントに。どれだけ食べる気ですか、牧野さん」
「しかも、それだけ食べて、腹は出ないしな。どんな体だよ」
「ホントに。世の中って不公平です。女子の敵です。その食欲で、その体型は」
「だから、頭を使ってんだよ、がーっと」
「まあ。それは認める」
「午後は戦争だし。ちゃんと腹ごしらえしないとな」
「戦争?」
「ああ。仕事を丸投げして逃げた会社か。あそこは、いつ聞いても評判が悪いな」
「らしいな」
「乗り込んでくるんですか?」
「客が呼びつけるとさ。ウチにも同席して欲しいらしい。向こうの言い分だと、ウチが無茶を押し付けてらしいからな」
「ひどっ だって、ウチ、ちゃんとコンバートできたのにっ お仕事しなかったの、向こうなのにっ」
「小杉くん。怒らない。そういうケンカは、この大きな男に任せておきなさい」
「おう。がっつんと、やっつけてきてやる」
「甘いものも、食べたほうがいいんじゃないんですか? 食べますか、これも」
「大丈夫だ。炭水化物を山ほど取ったからな。エネルギーは満タンだ」
「久しぶりの手料理だし」
「だから、久しぶりじゃねえって」
「なんだか、面白い組み合わせで、飯を食ってるな」

また背後から声を掛けられて、明子は驚きながら振り返った。
笹原が面白いものを見ているように、中の様子を眺めていた。
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