リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「部長。大変です。小杉、天中殺のようなモテキに突入しました」

助けてくださーいと、芝居がかった口調で縋る明子に、笹原はがははと笑い出す。

「会社中の女性を、見た目で騙しているモテ男と色男に挟まれてのランチなんて、バレたら石投げられそうです」
「ははは。なあ、どいつもこいつも。そんな顔に騙されてなあ」
「ホントです。実態はヒトデナシとロクデナシなのに」
「牧野がヒトデナシで、私がロクデナシかな」
「言ったな。お前、覚悟でできてるな。俺と島野さん敵にしたからな」
「すい臓を悪くしてる人のお腹に、どすんって拳入れてきたり、人のお弁当を強奪して食べちゃったり。そんな人をヒトデナシと言わずに、なんていうんですかっ」
「うるせえな」
「ひどいなあ。ホントにひどいやつだなあ」
「うきゃあ。だから島野さんも、手を握らないでくださいよ、もう」
「女性の温もりに飢えているんでね」
「だから、ロクデナシって言うんですよ。小杉の手なんか握っても、しょうがないじゃないですかっ」
「そんなことはありませんよ。柔らかくて気持ちいいですよ」
「ほれ、口を開けろ。トマト食え。キュウリも食わせてやる。なんなら口移して食わせてやるか? 弁当代だ」
「部長。助けてくださーい」
「わははは。いい機会だ、少し男にあれこれ遊ばれて、もっと逞しくなってこい」
「ひどいっ 部長。こんなウルトラ級のモンスターたちに遊ばれたら、私、再起不能になりますっ 再起動できませんっ」
「なに言ってやがる。きび団子持った金太郎のくせに」
「ホントに、口の悪いひどい男だな。小杉くん。こんな男は捨てて、ウチに移ってきなさい」

そんなことを言って、さらりと明子の腰に手を回し抱き寄せる島野に、明子は「ふにゃーっ」と悲鳴を上げて「部長っ、このハラスメントをどうにかしてくださいっ」と、笑いながら立ち去る笹原に訴えた。
その島野の手を、牧野はこれでもかと箸で突いた。
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