リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
(疲れた)
(一週間が始まったばかりなのに、マジで疲れたわ)


そんなことをぼやきながら、いつもの習慣で、部屋着に着替えるよりも先に、冷蔵庫を開けてよく冷えた缶ビールを取り出しそうになって、明子は慌ててその手を止めた。
冷蔵庫に留めてある『関ちゃん』の切り抜きが、明子のその手を止めてくれた。


(そうよ)
(お酒は週末だけって、そう、決めたんだわ)


危うく、誓いをたててから三日も保たずに、その誓いを破るところだったと、明子は呆れ混じりのため息を零しつつ「習慣って、こわ~っ」と小さく身震いした。


(関ちゃん、ありがとう)
(これからも、こんなダメなあたしを止めてね)


思わず、切り抜きに向かい手を合わせる。
誰もいない一人暮らしだから、こうやって戒めてくれる人を、頭の中に作るしかなかった。


(神頼みならぬ、『関ちゃん』頼み)
(ポンポン)


そんなことをぼんやりと考える一方で、夕飯はどうしようかなあと明子は考えていた。

家用のスウェットに着替えながら、時計を見つつ、腹の虫に何が食べたいですかとお伺いをたててみる。
ものすごい空腹を訴えているわけではない。
けれど、このままでは、夜中になにかを食べたくなってしまうくらいには空いているかもねと、腹の虫は暢気に現状を答えてきた。


(だよね)
(おにぎり一つと、カップスープだもんね)
(お腹空くよね)
(ホントは、夕飯、もう少しちゃんと、食べたかったんだけどさ)


午後七時のコンビニエンスストアで物色した結果、それくらいしかカロリー的にオッケーなものなかった。
背に腹は代えられないと、明子は夕食をそれで妥協した。


(でも、やっぱり、お腹が空いた)


さてさて、どうしたものかしらねと思案して、野菜スープ的なものでも作ろうかなと、明子は冷蔵庫を開けた。
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