リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
【高杉兄弟の一週間 金曜日】

長男の隆弘が、ソファーの背もたれに背中を沿わせるようにして、大きく伸びをした。
それを見て、末っ子の文隆が隆弘に話しかける。
「たか兄。最近、太った?」
「失礼なことを言うなっ」
「あ。でも、俺も最近、兄貴の腹、出てきたなあって思ってたよ」
「なんか、ワイシャツ、パツパツしてるじゃん」
ムッとした顔で、文隆をじろりと睨む隆弘を見ながら、次男の弘明と、三男の明文が文隆に加勢する。
「恰幅がよくなったと言え。前が細すぎたんだ」
「いや。太ったね。間違いなく、太ったよ。帰ってきてから、十キロは増えてるね、そのお腹」
「もう、三十二だろ。メタボとか、気をつけねーとやばいって」
「体格がいいっていうのと、太っているは、違うんだからな」
弟たちからの言葉を選ばない一斉攻撃に、隆弘は項垂れて腹部を摩る。
「まあ……。確かに。ちょっと出てきたかなと、思っていたんだけどな」
でも、そんなに責めることないだろうといじけたように拗ねる隆弘に、しかし、弟たちは容赦が無かった。
「どーせ。昼はコンビニ弁当で、夜は居酒屋なんだろ。離婚してからじゃん。ブクブクしてきたの」
「休みの日は、ゴロゴロしているだけだしね。車の掃除くらいして、ほしいよな」
「とりあえず、このケーキは没収な。もう、一つ、食べただろ。これは明日にしろって」
「週末の楽しみまで、奪うのかーっ」
弘明に取り上げられたケーキを取り返そうとする隆弘を、文隆と明文が押し留める。
「珈琲がこぼれるってば」
「座れ。太っちょヤロー」
弟たちに窘められながらも、恨めしげに弘明を睨む隆文に、弘明は肩を落として乾いた笑いをこぼした。
「子どもか、あんたは。とにかく、その現実を見ろ」
ピシッと隆弘の腹部を指差す弘明に、隆弘はばたりとテーブルに突っ伏した。
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