リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「お嬢さんや。飲み会でのそんな言葉を、真に受けるなよ」
「だって」
「そこで、そんなことない、これがいいんだなんて言われても、お前さんだって困るだろう」
「でも」
「飯なんか買ってくりゃいいのに、お前の弁当ばっかり食いたがって」
「それは」
「酔い潰れたときの膝枕は、他に女子たくさんいたってお前限定だったろう」
「もうっ 二人でわーわー言わないでくださいよっ」

泣きたいのか怒りたいのか
もう、それさえも判らないような、ぐちゃぐちゃとした感情の渦に明子は飲み込まれる。

「だって。そう言ったんです」

思いがけず、自分でも吃驚するような涙声だった。

「牧野さんが、そう言ったんです。これはそんなんじゃないなって。もっと、小さいのがいいなあ。性格は大人しくて、可愛いの。これはデカくてウルサくてキツイからムリって。言ったんですっ」

みんなの前で。
隣にいる私を指差して。
笑いながら。
牧野がそう言ったから。
泣きそうだった。
でも。
私だってイヤですよと、笑っているしかなかった。

お腹が空いたと言っては弁当を勝手に食べ。
酔ったと言っては膝を貸せと頭を乗せて。

そんなことを平気でするから。
いつも、当たり前のように隣に居座わって、そんなことを平気でするから。
もしかしたらと、そんな想いに胸をときめかせていたのに。

牧野は笑った。
こんなやつはムリと、そう言った。

あの時の。
泣き出しそうだったあの時の胸の痛みが。
今でもしくしくと疼く。
あの夜を思い出すたび。

それをこんなふうに笑われて、明子は泣き出しそうになってしまった。
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