リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「もう、十年以上になるからな、付き合いも。お前らが会社入ったころは、俺だって小林だって、まだ独身だったろ。今のお前らより若かったんだからな」
「そうでした」
「それくらいの付き合いになるんだよ」

お互い。
軽さのある君島の声に、明子の頬にも、やっと笑みが戻る。

「牧野な。子どものころに、いろいろあってな」

君島の唐突なその言葉に、明子は虚を突かれたように真顔になる。


(子どもの、ころ?)


君島の表情は、明子からは見えない。
わずかに見える小林の顔は、神妙な表情になっていた。

「なにが……」
「俺の口からは、言えない。それは、あいつが自分で話してくれるまで、待ってやってくれ」

尋ねる明子の言葉を遮って、君島はそう言い切った。

「その影響なんだろうな。あいつ、試すんだ、人を」
「試す?」

どういうことですか?
その意味が判らず、明子は君島にそう尋ね、その答えを待ち続けた。

「ずっと、一緒にいてほしいと思う相手に会うとな。あの手この手、いろんなことして試すだ。こいつは、ずっと、自分から離れないでいてくれるかってな。なにを言っても、なにを聞いても、なにをしても、ずっと、自分の側にいてくれるかってな。安心できるまで、ずっといてくれると、そう安心できるまで、試すんだ」

明子の心の中の霧が、すうっと晴れていく。
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