リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「試し続けるんだ。甘えたり突き放したり。相手が振り回されて、クタクタになって、疲れ果てようが壊れようがお構いなく、試し続けるんだ」

なにかが、すとんと明子のなかに落ちてきた。
腑に落ちた。
そんな感じだった。
牧野が。
ずっと理解に苦しんできた牧野が。
初めて、形になって明子の中に落ちてきた。
霧のなかであいまいだったその姿が、形となって落ちてきた。
そんな感じだった。

椅子の向きをくるりと変えて、君島は明子を向き合った。

「なあ。お前。覚悟あるか?」
「覚悟?」
「木村が言っていたろう。結婚は逃げ出さない覚悟がいるって」

明子を見上げるその目は、優しい。
けれど、怖いと明子は感じた。

「牧野が欲しがってるものは、覚悟なんだと俺は思う。それが見えるまで、試し続けるんだ。どんな強いやつにだって、弱いところはある。人は正しくキレイなだけじゃない。ずるくて汚いところもある。牧野にも。お前にも。俺にだってな。それを晒しあって受け止めあって。なにがあっても逃げ出さないと、離れないと。そう安心させてくれる、その覚悟が見たいんだ。欲しいんだよ、あいつは」

瞳には慈愛を宿し、けれど、手にした剣を突きつける。
そんな君島を、息をすることも忘れたように明子は見つめた。
ややあって。
ポン、と。
君島の手が、また明子の手を包み込むように優しく叩いた。

「心に、止めておいてくれ」

静かなその声に、明子は小さくこくんと頷いた。
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