リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「判ったよ。まあ、その話しは飲みに行ったときにな。小杉はあんまり苛めたくないからな。お前をじっくり尋問するから、覚悟しとけよ」

にたりと笑うその顔に、牧野はまた撃沈したように机に突っ伏して、ため息をついた。
面倒くせえ。
そんな言葉がその顔には浮かび上がっていた。

「そろそろ、あがるぞ」

お前、どうする?
パソコンを落として、机の上を片付け始めた君島のその声に、ようやく体を起こした牧野は、おにぎりを頬張りながらマウスを操作して、なにかの作業に取りかかった。

「メールを確認して、急ぎのものだけ返事したら、俺も今日はあがります」

気にしないであがってくださいと君島に答える牧野に「そうか」と君島も頷き、帰り支度を始めた。
小林も「俺も、あがりますけど」と、肩越しに牧野を見て告げる。

「はい。あー……、明日、ちょっと打ち合わせしたいんで、時間ください」
「判りました。君島、送ってく。乗ってけって」
「悪いな」

パタパタと帰り支度をしている二人をよそに、牧野は明子からの差し入れのおにぎりを食べながら、メールを確認していく。
珍しく、松山からメールが届いていることに気づき、開いてみた。
明日に先延ばしされた打ち合わせに関して、その順延に至った経緯についての後追い情報だった。

「お先」
「お疲れさん」
「お疲れさまです。気をつけて」

牧野に退社の挨拶をして出て行く二人に、牧野もそれに応じた挨拶を返しつつ、その目はメールを読み続けた。
のらりくらりと、あの人の良さそうな笑みと、和やかなしゃべり口調で、相手の口を開かせて聞き出してくれたのだろう。
あれこれと、こちらには伝えられなかった事実が、そこには書き込まれていた。


(ふざけやがって)


牧野が、忌々しそうに舌を打った。

その瞬間。



季節外れな雷鳴が、空から轟いた。
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