リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】

◆牧野孝平◆

大嫌い。

そう呟いた横顔は。
夢の中のお前のようで。
心まで凍りついた。









長い夜が明けて、牧野は帰路についた。
トラブルが発生した客先から、明け方近くになってようやく戻ってきた小林に、牧野は頭を下げた。


-バカ。仕事してきただけだ。気にすんな。



小林は、いつもと変わらぬ表情で笑った。
朝が来るまでずっと、牧野の側にいて話し相手になってくれていた君島も、ただただ謝る牧野に笑うだけだった。
子どものころから繰り返し見るあの悪夢を語り、震える体を丸めて蹲る自分の背を、子どもをあやす父親のような手で、静かにそっと叩いていてくれたあの夜から、ずっと、側にいてくれるその存在に、何度も牧野は救われてきた。


-淋しいからだよ。
-全部抱きしめてもらってこいよ。


君島のあの言葉が、ずっと耳に残って離れない。


(なあ)
(全部。受け止めてくれるか、お前)


胸の中にふわりと浮かぶ、毎日見つめ続けている柔らかな表情のその横顔に、牧野はそう語りかけた。
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