リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
それから、沈黙が続き、小林がそれに耐えられなくなったように、頭を掻き毟りながら口を開いた。

「なあ。お前らさ、そろそろ、はっきりしろよ」

一つ、小さな欠伸をしている牧野を見ながら、小林は唐突にそう切り出した。

「へ?」
「いい加減。面倒でしょうがねえんだよ。いつまでもよ、まどろっこしいことしてねえで、あいつにプロポースでもなんでもしちまえって」
「まだ、付き合ってもいませんよ。なんで、いきなりプロポースですか」

説教だとは思っていたが、予想外の展開を切り出す小林に、牧野は呆れ笑いをこぼしながらも、先ほどよりも明るい表情で話し出した。

「いらねえだろ、お付き合いなんて。さっさと結婚しちまえよ。面倒くせえ野郎だな」
「いやですよ。デートもなんもしてねえのに」

やだやだやだと、駄々をこねるように言い募る牧野の頭を、小林はうるせえと笑いながら小突いた。

「んなもん。結婚してからでも、問題ねえだろうが。もう、お前のもんみてえなもんだろうよ」
「まだ、そんなんじゃないですよ」
「お前の言いつけ守って、頑張ってんだ。ご褒美にプロポーズくらいしてやれ」
「なんですか。俺の言いつけ守ってって」

訳判らねえと口を曲げる牧野に、小林はへらりと笑いながら答えた。

「コーヒーだ、飯だ、あれだこれだ世話焼いて」
「そんなことないでしょ。飯は強奪してるだけだし。コーヒーだの茶だのは、俺だけじゃないし」
「服装なんかも、ここにきて、なんか変わったじゃねえか。君島が雰囲気が変わったって言っただろう。俺もそう思うぞ。お前、なんか言ったんだろ?」

小林の問いかけに、牧野ははてと首を捻った。
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