リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「そんな必要……」
「お前はいい。お前が、それで、本当に後悔しないなら、それでもいい。出した答えのその結果は、お前が背負うものだからな。ただな、人にまでそれを、押し付けるな」
「押し付けるって、どういう」
「話してやれよ、お袋殿に」
「だって、金の無心なんかされたら、迷惑じゃないですか。俺みたいなのを、いきなり押し付けられただけでも、お袋殿だって親父殿だって、大変だったのに。そのうえ、そんなことまで。迷惑でしょ」
「だから、お前が決めるな」

お前が決めていいことじゃないだろうと、君島は牧野に説き続ける。

「お前のことを生んだ母親は、今、お前がお袋殿と呼んでいるその人にとっては妹なんだろう。子どものころに別れて、それっきり、会うことのなかった妹でも、それでも、お袋殿にとっては、世界にたった一人しかいない血を分けた妹だろう」

淡々と続けられる君島の言葉に、牧野は反論しようと開きかけていた口を噤んだ。

「お前には、もう、自分を捨てていった母親への情なんてないとしてもだ、お袋殿には妹への情があるかもしれないだろう。だから、お前のことだって、そうやって引き取って、育ててくれたんじゃないのか? 誰も知らなかったなら仕方ない。でも、お前のところにはどうやってか調べ出して、そう連絡を寄越してきたんだ。もう長くない危ない状態だっていうなら、せめて、話だけでもしてやるべきじゃないのか?」

会う会わないは、お袋殿に決めさせてやれよと、そう訥々と続いた君島の言葉に、牧野は耳の後ろを掻きながら、そういうものなんですかと真顔で尋ねた。

「そもそも、俺、最期だから会いたいって言う感覚もよく判らなくて。会いたいなら、最期になる前に会っときゃいいだろって。なんで、最期だから会いたいなんて言うんだろって。長くないって聞かされても、だからなんだよって感じて」

捨てられたくない一心で、どんな痛みにも耐え続けて、それでも捨てられてしまったあの夜に、自分の心はどこかが壊れてしまって、今でもそこは壊れたままなのだろうかと、牧野は少しだけ視線を下げた。
伏せ目がちなその顔を見て、君島はその頭を鷲掴んで、しょうがないヤツだと言うようにガシガシと振った。
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