リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「お前。そういうところが、ちょっと、鈍いのかもしれないな。昔、小杉にも、それで酷いことしたようだぞ」
聞いたときにはまさかと思ったが、本当かもしれんなと言う君島の顔には、少しだけ苦々しい色が浮かんでいた。
君島に告げられたその言葉に、牧野の顔からすぅっと表情が消える。
「俺、……なんか、したんですか?」
牧野の声が、わずかに震えだした。
「あいつの爺さんが倒れたとき、病院に行きたいって言ったあいつに、お前は仕事をしろと言ったらしいぞ。それもお前から離れた原因の一つみたいだぞ」
聞かされたその話に牧野は目を見開き、やがて小さく首を振った。
「そんなこと、……覚えにないです」
君島の言葉に少なからずショックを受けながら、牧野はやや顔を俯け目を伏せた。
そんな牧野に、君島は叱るわけでもなく、ただ静かに言葉を続け言い聞かせた。
「小杉は、お前にそう言われたと言っていた。そんなときでも、お前はあいつに、仕事を放り出すのかと、そう言ったんだそうだ」
自分は本当に、そんなことを彼女に言ったのだろうかと、牧野は記憶の糸を必至に手繰り寄せるが、どうしても思い出せなかった。
「まあ……、お前も、今の木村や沼田くらいの年のころの話だろうからな。よっぽど、切羽詰まった仕事を、抱えてたのかもしれんし。お前は、仕事にのめり込むと、仕事のことしか考えなくなるようなとこがあったからな、あのころは。それでなくても、もともとがいろんなことに両極端なところがあるヤツだし。ものすごい情の深さを見せたかと思うと、ものすごく情が薄くなったり。でもな、人の生き死にに関わることには、あんまり薄情なことするなよ。な?」
重くならないように、軽い口調で言い諭す君島に、牧野はしばし目を伏せて考え込み、それからこくんと頷いた。判りましたと真剣な声で答えながら、それでも「でもっ」と、牧野は言い募った。
聞いたときにはまさかと思ったが、本当かもしれんなと言う君島の顔には、少しだけ苦々しい色が浮かんでいた。
君島に告げられたその言葉に、牧野の顔からすぅっと表情が消える。
「俺、……なんか、したんですか?」
牧野の声が、わずかに震えだした。
「あいつの爺さんが倒れたとき、病院に行きたいって言ったあいつに、お前は仕事をしろと言ったらしいぞ。それもお前から離れた原因の一つみたいだぞ」
聞かされたその話に牧野は目を見開き、やがて小さく首を振った。
「そんなこと、……覚えにないです」
君島の言葉に少なからずショックを受けながら、牧野はやや顔を俯け目を伏せた。
そんな牧野に、君島は叱るわけでもなく、ただ静かに言葉を続け言い聞かせた。
「小杉は、お前にそう言われたと言っていた。そんなときでも、お前はあいつに、仕事を放り出すのかと、そう言ったんだそうだ」
自分は本当に、そんなことを彼女に言ったのだろうかと、牧野は記憶の糸を必至に手繰り寄せるが、どうしても思い出せなかった。
「まあ……、お前も、今の木村や沼田くらいの年のころの話だろうからな。よっぽど、切羽詰まった仕事を、抱えてたのかもしれんし。お前は、仕事にのめり込むと、仕事のことしか考えなくなるようなとこがあったからな、あのころは。それでなくても、もともとがいろんなことに両極端なところがあるヤツだし。ものすごい情の深さを見せたかと思うと、ものすごく情が薄くなったり。でもな、人の生き死にに関わることには、あんまり薄情なことするなよ。な?」
重くならないように、軽い口調で言い諭す君島に、牧野はしばし目を伏せて考え込み、それからこくんと頷いた。判りましたと真剣な声で答えながら、それでも「でもっ」と、牧野は言い募った。