リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「でも、俺、ホントに、あいつにそんなことを言った覚えは、ないです」

記憶にないと言う牧野を宥めるように、君島は牧野の頭に手をのせた。

「なあ。お前らさ。ちゃんと話しをしろよ」
「は?」

話しなんて、毎日、山ほどしている。なのに、ちゃんととはどういう意味なんだろうと、牧野は不思議そうに君島を見た。

「してますよ」
「どうでもいい話しなら、な。俺が言っているのは、お前ら自身のことを話せってことだ。なんていうのかな、お前たち二人とも、お互いに相手の内側に踏み込むことを怖がって、だから核心に触れそうになると、逃げ回っているようにしか見えないんだ、俺には」

君島にそう言われて、牧野は唇を噛み締めて項垂れた。

「小杉の話、俺も鵜呑みにして、まんま信じてるわけじゃないんだぞ。まあ、確かに、ちょいと変わり者だけどな、お前。それは言ったらダメだろうとか、したらダメだろうとか、そういうことを悪気もなく、というか、自分では褒めているくらいのつもりで、言ったりしたりするからな」

くつくつと笑う君島に、牧野は口を尖らせるようにして拗ねた。

「でもな、倒れた爺さんのところに、すぐに行きたいって言ってるあいつに、本気で仕事をしろなんて言うとは、俺も思えないんだよ。でも、小杉はお前にそう言われたと思っている。まあ、あいつだって、お前より年下の、まだまだ子ども染みたところがある女の子だったころだからな。それこそ、今のヒメより若いくらいのころだろう。お前のひねくれた言葉、そのまま額面通りに受け取って、なにか誤解していたことなんて、山ほどあるようだしな」
「なんですか、それ?」
「飲みに行ったときにでも話してやるよ。もう、聞いてるこっちが、頭痛くなったきたんだからな」

君島の頬に浮かんだ呆れ交じりの苦笑いに、牧野はまた口を尖らせ不貞腐る。
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