リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「多分。お前たち二人とも、肝心なことは黙ったままで、ちゃんと向き合って話そうともしないから、いろんなことを誤解しているんだと思うぞ」

したり顔で牧野に説教じみた話しを続ける君島に、牧野な顔は次第に渋面になっていく。
君島はその頬を「判ってねえな、このやろう」と言いながら、軽く抓りあげた。

「痛いですよ」
「うるさい。特に小杉はな。訳が判らないお前の言動に、ずっと振り回され続けて、それでも、お前のことを判りたくて、お前に認められたくて、お前の言動からあれこれ考える癖がついてしまったからな。余計、お前から本当のことなんて聞き出そうともしないで、誤解したままで、傷ついていたり怒っていたりしているところがあるぞ?」
「だからですね。俺は、振り回してるようなつもり、ホントにないんですよ」

よく言われるけど、ホントにそんなことしている覚えないのになあと、抓られた頬をさすりながら、納得いかないんだよなあと抗議する牧野に、君島は疲れたような笑いを零した。

「そんなつもりがあってやっていたら、とっくにぶっ飛ばしてるよ。このバカ野郎ってな。自覚もなく、ホントにただ甘えたいだけでやってるから、仕方ねえなって諦めて付き合ってやってんだぞ。バカ」

しようがねえやつだなと笑う君島に、牧野はまた拗ねたように項垂れるだけだった。
そんな牧野をやれやれと見つめていた君島は、やがて、その目を空に向けた。
そうして、まるで遠くを見ているような様子で静かな深い声を発した君島は、牧野にぽつりと問いかけた。

「なあ。牧野。お前、自分の子ども、欲しいか?」

突然、なんの脈絡もなく切り出された話に、牧野は面食らったような顔つきで、君島を見た。君島はどこまでの真面目な顔つきで、牧野そう尋ねていた。

「そりゃ……。まあ。欲しいって気持ちはありますよ。育てられるかどうかは、判りませんけどね。父親ってもんが、よく判らないから、まっとうな親になれる自信もないし」

やや自虐的な笑みを浮かべて笑う牧野を、君島は少しだけ痛ましげな顔つきで眺めながら、諭すような口調でそんなことはないだろうと牧野に言う。

「親父殿がいるだろう。お前に父親の愛情を、あの人は注いでくれなかったか」
「たくさん……、貰いました」
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