リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「いろいろな治療していたころにな、医者から言われたんだよな。女性は三十四を過ぎたころから、一気に妊娠の成功率が下がりますよって。どんなに医学が進歩しても、そういう体の仕組みを、根本的に変えることはできないんですよってな」
「はあ」

きょとんとしながら君島の話を聞いている牧野の額を、君島は指で押すように小突いて、笑った。

「小杉だって、もう三十一、三十二くらいになるんだろ。モタモタしてると、あっという間に三十後半に突入するぞ。だから、あんまり、のんびりしてるなよ。いろんな意味で、男のリミッターと女のリミッターは違うんだよ。二十代と違って、三十代の恋愛は、時間的な制約もあると思うぞ」

そういうことも踏まえて、将来のこととか、ちと現実的に考えろよ。
そう続く君島の言葉に、牧野は額を押さえながら「はぁい」と間の抜けた返事を、渋々という顔つきで返した。


(俺だって、考えてるんだけどなあ)


そう反論したい気持ちもあったが、その言葉は喉の奥に飲み込んだ。

君島に言われて初めて、自分はただ情景に似た思いで、二人の未来を漠然と夢見ているだけなのかもしれないと、そんなふうにも思えた。
子ども部屋をなんてことは考えたけれど、子どもといる自分が、牧野にはまったく想像できない。
君島の言葉で、父親になれる自信など、自分の中に欠片もなかったことに、牧野は今更ながらに気づいた。
仮にも、一度は家庭を持っておきながら、ヒドいヤツだなと自分に苦笑した。

牧野の自嘲めいた笑みに気づきながら、君島は言葉を続けていく。
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