リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「さっきの小林じゃないけどな。気持ちが決まっているなら、一気に結婚まで話しを持っていっちまってもいいんじゃないか?」
「はあ」
「十年前なら、二年、三年お付き合いしてから、いよいよ結婚。なんてペースでもいいけどな、その年でそんな悠長なことしていたら、お前だってあっという間に四十だぞ。自覚しろよ、そういうこと。あんまり、のんびり構えでないで」
「のんびりしているつもりはないんですけど。あいつが返事くれねえし」
「聞けばいいだろう。だいたい、なんで伝えたときに、返事を聞かなかったんだ。そのときに聞けばよかっただろうが」

もっともなことを言う君島に、牧野は「それは、その」と、口ごもった。

「いや、その……、言葉で伝えたわけじゃないし」
「なんだ、そりゃ」
「まあ、ちょっと……、その、なんつうか、そこまでストレートなことは、ですね、その……、していなくてですね」
「やっぱり、判りにくい面倒なことしてるんじゃないか。バカ」
「いや、気づいてくれれば、判りやすいんですよ。ただ……、気づいているか、気づいていないかが、微妙っつうか。なんつうか。土曜は、まだ気づいていなかったし」

珍しく、耳を赤くしながら襟足をガシガシと掻き乱している牧野に、君島は盛大なため息を吐き出した。

「どうして、小杉に対しては受身一方かねえ、お前は。仕事のときみたいに、ガンガンいけばいいだろう」
「行って玉砕したら、俺、今度こそ立ち直れないですよっ」

判るでしょっと言い捨てる牧野に、バカだなと君島は笑う。

「どうして玉砕しなきゃならないんだよ。どう見たって、お前に惚れてる女だろう。だいたい、車に乗せたなら、そのまま、ホテルでもなんでも連れ込んじまえばよかったんだよ」
「うわ。出たよ。やんちゃ坊主時代の名残が」

冷やかす牧野に、まあなと君島も悪びれることなく片頬を歪ませ笑った。
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