リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「いや。あの日は、そんな雰囲気は作れなかったし」
「それをどうにかするのが、腕の見せどころってやつだろ。今までさんざん遊んでて、なんでいざって時に尻込みするんだよ、お前は」
「土建屋の話しをしながらだったんですよ。そんな雰囲気、作れませんよ」

牧野のその言葉に、君島がその表情を険しくした。

「……その件、だけどな。片を付けてくれたことには、感謝している。だがな」

普段、あまり聞くことのない凄む君島の低い声に、牧野も表情を硬くした。

「あんなやり方しかなかったのか? だいたい、俺は言ったはずだ。なにもしなくていいと。土建屋には、打ち合わせの延期を伝えてくれと。違うか?」
「そのつもりでした。ただ、ちと、吉田が」
「あんなのに煽られて、熱くなるな、バカ。それでも、まだ、お前が出ていったって言うならともかくだ、あんなふうに小杉を矢面に立たせて、なにしてるんだ、お前」
「あれは」
「部長命令で仕方なく、なんて言うなよ。そこで堤防になって、守ってやるのがお前の役目だろ」

違うのかときつい口調で問われた牧野は、唇をきつく噛み締めるしかできなかった。

「小杉に関しちゃ、お前が掟破りな手を使って引っ張ってきたってことで、最初から、色眼鏡で見ている連中も多いってこと、知ってるだろう、お前だって」

訥々と続く君島の言葉に、次第に牧野はその顔を俯かせていく。

「お前が引っ張ってくるくらい優秀だってことを、本人がすぐに証明して見せたから、あれこれと言う連中なんて、すぐに減ったけどな。だからって、あんなことをさせたら、また買わなくていい反感だって買うかもしれないだろ。野木が言ってたよ。いざとなったら、本部長まで担ぎ出すような人なんですねえってな」

その言葉に、牧野は驚いた表情で顔を上げた。
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