リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「あれは、本当に俺も、知らなかったんです」
「判ってるよ。お前や小杉が本部長を担ぎ出したとは、俺や小林なら思わん。でも、そんなふうに思ったやつらもいるんだからな。もう、あんまり派手なことやらせるな。吉田はもともと、気は小さいからな、妙なことはしないだろうが、それでも心の中じゃ、小杉を恨んでいると思う。人の恨みを買わせるようなこと、惚れた女にやらせるなよ」

とくとくと、諭す君島に牧野は頷くしかなかった。
吉田から恨みを買っただろうなと言うていどのことは想像していたが、林田と繋がっているような印象は、あまり周囲に与えたくなかった。それは、牧野にとっても計算外だった。
なにか対策を講じる必要があるか、あいつに相談してみたほうがいいのかもしれないなと、独りごちた。

「それから、ついでに言うけどな、そろそろ、どうにかしてくれないか、お嬢様。小林じゃないけどな、いい加減、邪魔くさいって、あれ。小杉だってまいっちまうぞ、小林が言っていたけど、最近、露骨に絡んでるんだろ?」
「そう、ですね」

渋面の君島に牧野も頷き、忌々しそうにチッと舌を鳴らした。
なんで、嫌がってることが判らないかねえと、牧野にも不思議でたまらなかった。

「どうにか、してくれそうにないのか?」

含みのあるその言い方に、牧野は肩を竦めてややおどけた顔で笑う。

「次に戻ったら、どうにかするから、それまでからかって遊んでろって」
「あのなあ。遊んでろってなあ」
「俺に言わないでくださいよ。そう言って寄越してきたんですよ」
「いつ戻るんだよ」
「あー。来月、戻るって」

そう言ってきました。先週。
さらりと返されてきた牧野の言葉に、君島は苦笑しながらうなだれた。
そういう情報は、こっちにも早めにアナウンスしてくれよと、愚痴るようにこぼす。
< 809 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop