リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「言っただろう。さっさと決めてしまえと。奥の手を使ってまで強奪しておきながら、なにをいつまでもモタモタとしているんだ、お前は」
「えーと。いや、それは、いろいろとですね」
「牧野。小杉のせいにするな。肝心のお前が、怖くて腹を括りきれんのだろう」

ぐさりと、笹原の言葉が刃となって、牧野の心を抉るように突き刺さった。

「木村の言葉じゃないが、お似合いだと思うぞ。また誰かに攫われんうちに、しっかりと捕まえてしまえ。今度逃がしたら、もう見つからんぞ。お前の隣に並べるような女は」

まあ、余計なお世話だな。
そう言って、また、わははと豪快に笑う笹原に、牧野は「判っています」と言うように小さく頷いて、目を伏せた。



大嫌い。
大嫌い。
大嫌い。
大嫌い。



あの言葉が、牧野の耳の奥から消えない。
目に焼き付いた横顔が、忘れられない。
絶えず、鳴り響き続けている。
本心じゃないと、自分に言い聞かせる。
ふざけて、軽い気持ちで言っただけの言葉だ。
そう、自分に言い聞かせる。
それでも……。
不安が消えない。
苛立ちと恐れで、胸が一杯になる。
お前は人を振り回すと、よく君島に叱られ笑われる。
自分はずっとこんなことを彼女にしていたのかと、牧野は初めてそれを考えた。

車の運転をしていても。
客と話をしていても。
データを調べていても。
なにをしていても。
誰と話していても。
牧野の心の中にあるのは、明子だけだった。

大嫌いというあの言葉で凍りついた牧野の胸に、明子が閉じ込められているようだった。
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