リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
気が付いたら……。


抱きしめられていた。
温かい温もりに包まれていた。
抱き寄せたのは、自分のほうだったかもしれないけれど。
記憶が微妙に曖昧だった。

不思議だった。
心が瞬く間に落ち着いて、温かくなった。
髪を撫でてくれるその手の優しさに、涙が滲んだ。


‐どこにも、いかない。ずっと、側にいる。

それは、まるで、魔法の言葉のようだった。
牧野が抱えている寂しさを。
心の闇を。
吹き払ってくれた。

誰といても。
なにをしていても。
埋まらなかった、心の中にぽかりと開いた大きく暗いその穴に、光が差し込んでいくようだった。
暗闇を照らすその光は、その暗い穴を光で照らし、温かく柔らかな心地よいものを詰め込んでくれるようだった。


‐もう、寂しくないだろう。


自分を案じてかけてきてくれた電話の向こうで、君島が優しい声で笑っていた。
笑いながら告げられたその言葉を思い出し、不覚にも涙が滲んだ。

自分を抱きしめてくれているその人を、牧野もきつく、つよく、抱きしめ続けた。







雷鳴は、どこか遠くに消えていった。
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