リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
4章 山も谷も2人で超えよう

1.夢を形にするのは難しい

自分の車は会社の駐車場に移してあるという牧野の言葉通り、会社の営業車や社用車と並んで、見慣れた牧野の車も街灯に照らされて来客用駐車スペースに置いてあった。
二十時以降は、会社への通勤用の車として届けてある車であれば、空いているスペースに止めておくことができた。
だから、車通勤で深夜まで残業になりそうな社員の多くは、外に買い出しなどに出たついでに自分の車を持ってきてしまうのだが、それほど駐車スペースにも余裕はない。
なによりも運を味方につけないと、なかなかこの場所は確保できないらしい。
なんかさ、今夜は珍しく空いていたんだよなと、牧野は自分の後ろを歩く明子にそう告げた。

「もしかして、まだ仕事をしていく気だったんですか?」

帰って休まなきゃダメですよと呆れたように言う明子に、牧野は「いや、それは……」と、歯切れ悪い返事を返した。

「なんかな。まだいるような気がしたからさ」

そんなことを言いながら、周囲に人の気配がないことを見て、牧野は背後の明子の手を取った。

「遅いからな。送ってやるかって」
「今日は送らないって、さっき言ったじゃないですか」

苛めた仕返しとでも言うように、つんとそっぽ向くような態度をとる明子に、牧野は少し照れたような声で「うるせぇ」と、言い返した。

会社の裏手にあるこの駐車場は、昼間のうちこそ明るく、人の出入りもそこそこにあるのだが、街灯が灯っているだけの人気のない静かな夜ともなると、一人で歩くには少しばかり不安を覚える怖さがあった。
営業にいたころも、客先からの帰りが遅くなったときなどは、明子は車を止めて降りると足早に駐車場は出て、社内に駆け込んでいた。
でも、今夜は牧野がいた。
隣に並ぶ牧野は、まだどこかぼんやりとした顔だったが、それでも、明子を安心させるように、その手をしっかりと力強く握りしめてくれた。
だから、不安など微塵も感じなかった。
< 819 / 1,120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop