リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
「車、必要なときは言えよ。出すからさ」
「え?」

突然、方向が変わった話しに、明子はなんのことだろうと、きょとんとした顔で牧野を見た。

「俺が、車を出すから言えって、そう言ってるんだよ」

デカい買い物するときとか、遠出するときとか。
なにかを誤魔化したくて話しを変えたような様子の牧野に、明子は少しばかりの訝しさを感じながら、それには触れず「そうですねえ」と、曖昧な頷きを返す。

「買い物はー。近くの店にないものは、ネットで頼んじゃうことが多いんですよねえ」
「まあな。世の中、便利になったよな」

ケータイでも買い物ができちまうもんな。
それは判るというように頷いている牧野に、明子は思いついたことを尋ねた。

「この車って、いくらくらいするんですか?」

というか、なんて車ですか?
明子の質問に眉を寄せながら、牧野は車の車名と買った当時の価格を告げた。

「普通乗用車の値段って、だいたい、それくらいですか?」

私、あんまり車に詳しくないから、よく判らなくてと言う明子に「まあ、そうだなあ」と、牧野は頷いた。

「このクラスの車の中では、平均的な価格かなあ。なんで?」
「私も車を買うかなって思って。買うとき、一緒に見に行ってくれます?」

少しだけ、甘えるような声でそう尋ねる明子に、牧野は機嫌のいい声で「そりゃ、いくらでも付き合ってやるよ」と、答えた。

「急にどうした?」
「そろそろ、私も車通勤にしたほうがいいかあと」

そう続いた明子の言葉に、別にいいだろうと牧野は答えた。
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