リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
牧野が『三馬鹿兄弟の土建さん』と呼ぶその会社は、かれこれ十数年の付き合いになる顧客だ。
二年に一度くらいのペースだが、それなりの予算をたてた大きな仕事を依頼してくる。
会社から見れば、そこそこの上客とも言えた。
しかし、なぜか社員からは、密かに『魔の土建会社』と呼ばれ恐れられているらしい。
数年前までは必ずといっていいほど、一人か二人、この会社のプロジェクトに関わった社員が体調を崩していたらしい。
それが『魔の土建会社』と呼ばれる謂われらしい。
医者の診断により、半年近くも、病気療養ということで休職した社員も出たことがあるというのだから、それも仕方がないことなのかもしれない。
明子自身は、これまで仕事で関わったことのない顧客なのだが、牧野曰くの『三馬鹿兄弟の土建さん』は、明子がこの春から耳にしている諸々の噂話を統合すると、そんな話がやたらと多い、ちょっとばかりやっかいな顧客だった。
父親の代で起こしたというその企業は、県内では知名度の高い企業だ。
五年前に、その父親は三人の息子に後を任せて引退し、今は娘夫婦とともに海外で暮らしていると言う。
そして、父親から後を任された三兄弟は、長男が社長に、次男が専務、三男が常務という役職についた。
副社長は彼らの叔父にあたる人らしいのだが、この人物は滅多なことでは社員の前には出てこない。
会社の経営は、ほぼこの三兄弟に委ねられていた。
ところがである。
この兄弟が、とにもかくにも仲が悪い。
例えば、兄弟皆母親がそれぞれ違うとか、そんな理由があって仲が悪いというわけでもない。
理由らしい理由もなく、とにかく仲が悪い。
専務がこうしたいと意見を言えば、常務と社長がそれに反対し、常務がこうしたいと言えば、専務と社長がそれを潰し、社長の意見には常務も専務も絶対に頷かない。
一事が万事、その調子だった。
当然のことながら、明子たちの会社に依頼してきた仕事ですら、彼らは口を挟んで混乱を引き起こす。
そんなこんなで、要件要望を吸い上げる段階でスケジュールは大幅に後ろにずれ込んでいった、毎回。
そうして、ようやく開発段階まで漕ぎ着けたときには、プロジェクトメンバーのほぼ全員が満身創痍の状態で、百時間を越える残業が待ち構えている修羅場に突入しなければならない。
そして、体調を崩す社員が続出する。
明子が人伝に聞いた話を総合すると、そんな地獄をプロジェクトチームにもたらす、はた迷惑な顧客だった。
二年に一度くらいのペースだが、それなりの予算をたてた大きな仕事を依頼してくる。
会社から見れば、そこそこの上客とも言えた。
しかし、なぜか社員からは、密かに『魔の土建会社』と呼ばれ恐れられているらしい。
数年前までは必ずといっていいほど、一人か二人、この会社のプロジェクトに関わった社員が体調を崩していたらしい。
それが『魔の土建会社』と呼ばれる謂われらしい。
医者の診断により、半年近くも、病気療養ということで休職した社員も出たことがあるというのだから、それも仕方がないことなのかもしれない。
明子自身は、これまで仕事で関わったことのない顧客なのだが、牧野曰くの『三馬鹿兄弟の土建さん』は、明子がこの春から耳にしている諸々の噂話を統合すると、そんな話がやたらと多い、ちょっとばかりやっかいな顧客だった。
父親の代で起こしたというその企業は、県内では知名度の高い企業だ。
五年前に、その父親は三人の息子に後を任せて引退し、今は娘夫婦とともに海外で暮らしていると言う。
そして、父親から後を任された三兄弟は、長男が社長に、次男が専務、三男が常務という役職についた。
副社長は彼らの叔父にあたる人らしいのだが、この人物は滅多なことでは社員の前には出てこない。
会社の経営は、ほぼこの三兄弟に委ねられていた。
ところがである。
この兄弟が、とにもかくにも仲が悪い。
例えば、兄弟皆母親がそれぞれ違うとか、そんな理由があって仲が悪いというわけでもない。
理由らしい理由もなく、とにかく仲が悪い。
専務がこうしたいと意見を言えば、常務と社長がそれに反対し、常務がこうしたいと言えば、専務と社長がそれを潰し、社長の意見には常務も専務も絶対に頷かない。
一事が万事、その調子だった。
当然のことながら、明子たちの会社に依頼してきた仕事ですら、彼らは口を挟んで混乱を引き起こす。
そんなこんなで、要件要望を吸い上げる段階でスケジュールは大幅に後ろにずれ込んでいった、毎回。
そうして、ようやく開発段階まで漕ぎ着けたときには、プロジェクトメンバーのほぼ全員が満身創痍の状態で、百時間を越える残業が待ち構えている修羅場に突入しなければならない。
そして、体調を崩す社員が続出する。
明子が人伝に聞いた話を総合すると、そんな地獄をプロジェクトチームにもたらす、はた迷惑な顧客だった。