リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
【高杉兄弟の一週間 金曜日】

「駅まで歩きなよ。歩いたって二十分もかからないのに、わざわざ駐車場まで借りて、車で行くことはないと思うな」
叱るだけの弘明、明文と違い、もっともらしいことを口にする文隆に、隆弘は「それは……、まあ、そうなんだけどな」と口ごもりながら、悪あがきの言い訳を口にする。
「朝はいいんだけどな、帰りがな」
「飲んできた日は、車なんて置いてきちゃっているくせに。それで次の日、駅まで送れって、寝ているひろ兄のこと叩き起こして、ケンカになって。あれ、すっごい迷惑なんだよね。たか兄が少し早く起きて、歩いていけばいいんでしょ? このあたりの人、みんな歩いてるよ?」
「すいません」
「あとさ、お昼ご飯は、お弁当を作って持って行ったら? 原因は間違いなく、食べすぎなんだからさ。晩ご飯も今より少なめにして」
もっともな意見を言う文隆に、明文もそうだそうだと同意する。
「それ賛成。外食ばっかしているからダメなんだよ。オレだって、握り飯くらいは作って持っていってるぜ」
弟二人のその言葉に、隆明はため息を吐く。
「誰が、その弁当を作るんだ?」
じろりと二人を睨み、隆明は一気に畳み掛けた。
「自慢じゃないけどな、家事一切合切、俺はなにもできないからな。なにもできないから、愛想を尽かされて、かみさんに出て行かれちまったんだって、知っているだろ、お前ら」
胸を張ってそう威張り散らす隆文に、弘明がにっこりと笑い提案する。
「よし。一食五百円で作ってやる」
「高っ 高利貸しかよっ 悪代官かよっ」
「ひろ兄。オニだ。それはオニすぎる」
その言葉に文隆と明文は弘明を指差しながら笑い転げる。
「なに言ってんだ。光熱費と材料費と手間賃をだな」
指折り五百円の根拠を並べ始めた弘明に、隆弘が目を座らせる。
「おい。この家の電気水道ガス電話、全部、俺が払っているはずだぞ。お前がなにを払っているっていうんだっ」
「細かいこと、言うなよ」
「ひろ兄が、それを言うなって」
「文隆。これは細かいっていうんじゃねーよ。がめついって言うんだ」
「なんだと、三男坊の分際で生意気なっ」
弁当を巡る口論を始める兄弟たちの姿をフェードアウトするようにして、番組はCMへと変わった。
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