リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【前編】
はあーっと、芝居がかったため息を盛大に吐いた明子は、少し考えてから島野に返信した。


 判りました。
 ありがとうございます。

 おやすみなさい。



そんなメールを送って、ようやく、明子の心はすとんと落ち着いた。
夕方、お付き合いしてますよ的な宣言をしたものの、まだどこか、この事態を他人事のように捉えていて、覚悟かフワフワと浮ついていた。それがようやく、体の芯に根っこを張って腹を据わらせる重石になった。
そんな感じだった。


テーブルに貼ってある牧野からのメモを、明子は撫でた。
言いたいことをズケズケと言う口なのに、そんな牧野が言葉ではなく、文字にして贈ってくれた言葉がそこにはある。


(私の勇気)
(これがあるから、大丈夫)


そう自分に大丈夫の魔法をかけた。


(それにしても、島野さんの今カノさんって、総務の子なんだ)
(どの子だろ?)
(というか、総務って、元カノ率高いよね)
(よくそこで、また彼女を作るなあ)


さすが、島野さんだわねと妙なことに感心しつつ、明子はさてと言って気分を切り替えた。

がっつり食べるのはどうかという時間だけど、食べたいときに食べないと、ホントに倒れてしまいそうだわと、ようやく、明子はご飯を作ろうと立ち上がった。
このまま座り込んでいると、ずるずると牧野のことを考え出して、泣き出してしまいそうだった。
メールにあった牧野の名前を見ただけで、鼻の奥がジンジンと痛い。

今日は、その声すら聞いていない。
会いたくて、たまらない。

閉じた瞼に浮かんだ綺麗な横顔に、会いたいなと明子は呟いた。
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