キスはおとなの呼吸のように【完】
わたしはびっくりして、心臓が縮みあがった。
酔っぱらいは、ワンカップのびんが割れたことも気にくわないようすだった。

なにかひとつ叫んだあと、足もとの破片を靴の底で蹴散らしながら、こちらにむかって歩いてくる。

せまい店内。
しまったガラス戸。
ステンレスのバーカウンター。

どこにも逃げ場のないわたしがびくついていると、カウンターのむこうからカズトがどすのきいた声をだす。

「お客さん。悪いけど、暴れるなら帰ってくれ。ほかの客にめいわくだ」

「あ?」

酔っぱらいはいとも簡単に怒りのほこ先をわたしからカズトに変更した。
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