キスはおとなの呼吸のように【完】
「いってらっしゃいワン?」

無意識に読みあげてしまった。
カズトはわたしの視線を追って、自分のうしろのすりガラスに目をむけた。

「ああ」

おだやかにそういうと、なつかしそうに犬のステッカーを指でなでる。
それから、ぜんぜん暗くない調子で言葉をつけたした。

「これは、死んだおふくろの唯一の思い出みたいなものかな」
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