キスはおとなの呼吸のように【完】
わたしが顔をあげたとき、兼田社長はいまだデスクに座ったままだ。
ソファからは数歩ぶんの距離がある。

資料をだしたはいいけれど、わたしはそれをもてあましてしまった。

そのかんの兼田社長は、わたしの一挙手一投足をしずかに見つめて微動だにしない。

横にいる大上先輩に視線をふると、うなずきだけが返ってきた。

しかたない。

わたしは「失礼します」といって、ソファを立ちあがり数歩先のデスクまで資料を運んだ。
< 139 / 380 >

この作品をシェア

pagetop