キスはおとなの呼吸のように【完】
「寒いなか、わざわざご足労いただき、ありがとうございました。くわしいお話はまた、後日こちらにいらしてくださったときにいたします。それでは」

さっさと帰れといわんばかりのせりふだった。

飛びこみ営業ならともかく、せっかくこぎつけたアポイントメント営業で、資料をわたしただけで帰れといわれたのははじめてだった。

これでは門前払いとたいして変わらない。

四葉屋の若い社長は、はじめからわたしたちと駆け引きをしたり、対等な関係を築くつもりなど微塵もないようだった。

「あの……」

わたしが口をひらこうとしていると、うしろの大上先輩が言葉をかぶせた。
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