キスはおとなの呼吸のように【完】
「気持ちよく商品を買ってもらうためには自尊心を傷つけず、なおかつ友好的な関係を築かなければならない。だが、兼田社長の場合だと、それがむずかしそうだよな」

大上先輩は渋面をつくりビールでのどをうるおした。
わたしはただただ大上先輩の観察能力の高さに感心して、あいづちを打つだけだった。

ケータイをいじるまもなく、いろいろと思考をめぐらせたが、こたえになりそうな会話はひとつも思いつかなかった。

刻々と時間だけが経過していく。

居酒屋にいるあいだじゅう、カズトに連絡をいれるひまはなかったが、運よくあきびんの回収に三本酒店の若い店主は居酒屋にあらわれなかった。
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