キスはおとなの呼吸のように【完】
18.とつぜんの契約
兼田社長は、すぐに部屋にもどってきた。
手には一冊、A4サイズのノートを持っている。

おそらくフロアで先ほどの男性社員から受けとった顧客リストかなにかだろう。
カラフルなポストイットが何枚もイソギンチャクのようにはみだし、ページとページのあいだにはプリントアウトが大量にはさまって、ぱんぱんに膨張している。

デスクにもどる途中、兼田社長の持つノートからポストイットが一枚落ちた。

わたしからすこし離れた目のまえだ。
社長はそれに気づかず、そのままデスクに着席する。
反射的にわたしはソファを浅く立ちあがり、ポストイットを拾いあげる。
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