キスはおとなの呼吸のように【完】
「あの。落としましたよ」

ポストイットには、日づけと『完』の文字が手書きで雑に書かれていた。
おそらく振込完了の意味なのだろう。

わたしがポストイットを突きだしても、兼田社長は座ったまま微動だにせず、こちらを見ている。

「ごくろうさま」

そういって口を動かすだけで、身体のほうはまったく動く気配がない。
自分がとりにいくのではなく、わたしにここまで持ってこいといわんばかりの態度だった。

あいかわらず感じが悪い。

ごねていてもしかたないので、わたしはソファを立ちあがり、デスクまで数歩足を進めた。
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