キスはおとなの呼吸のように【完】
「帰りに祝杯をあげよう」

土曜日のお酒のあとのできごとをまるで覚えていないといった無責任な発言だが、先輩がそんな気分になるのもわからなくなかった。

たぶん、ここで蒸し返すのは野暮なのかもしれない。

あの夜のことを覚えていないのならば、この話しは記憶のかなたに投げ捨てるか、そっと心にとどめておくべきものなのだと思った。

わたしがのみこみ、ふだんどおりにすごしさえすれば、ひずみは起きずなにも問題はない。

くやしいけれど、きっとそれもおとなの対応なのだ。

そんなふうにいいきかせ、今はただ大上先輩のように契約成立のよろこびにひたった。
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