キスはおとなの呼吸のように【完】
「怪我、大丈夫?」

カズトも右手のひとさし指に視線を落とした。

長い時間、冬の空気にさらされて、指の怪我は血がかたまりはじめていた。

指の怪我とわたしの顔を交互に見ながらカズトがいう。

「だめかも。泣いちゃいそうなくらいに痛い」

「そっか」

それだけいえれば心配はない。

わたしはにぎったカズトの手から、視線を地面に移した。

ふたつに割れた犬のステッカーが、冬の高い空にむかってしずかに「ワン」と鳴いていた。
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