キスはおとなの呼吸のように【完】
だからわたしはときどき昔を思いだす。
階段からふりむいたときに見える景色は、たいていはかなしい記憶だ。

捨て去ることのできない記憶は未来に持ちこすこともできずに、いつまでたっても心の底に宙ぶらりんのままなのだ。

中途半端におとなになったわたしたちのひどくおさない心のなかには、そんなどうしようもない思い出たちが、ぽつりぽつりとたくさん落ちていて「ここにあるよ」とときどき声をあげておおきく泣きだす。
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