キスはおとなの呼吸のように【完】
「ひさしぶりだね。シオリがこんなに感情をおもてにだして自分の話をするの。もしかしたら、おれが告白したあの夜以来かも」


あの夜――


カズトにそういわれて、はっとした。
思いのほか弁に熱がはいりすぎたようだ。

「ねえ、カズちゃん。彼女とばかりいちゃいちゃしてないで、お酒のお代わりちょうだいよ」

ハロゲンヒーターのまえに陣どるわたしから一番遠い位置にいた、中年のサラリーマンが声を張る。
カウンターの一番むこうの端にいる、はじめて見る顔の男性だった。
まっかな顔とヴォリュームのつまみが壊れてしまっているところを見ると、かなり酔っぱらっているようすだ。
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