Vrai Amour ~駿の場合~
3.おかえり
病室に横たわっている奥様は、真っ青で私は生きた心地がしなかった。

必死に氷のような手を握り、ただ奥様が目を覚ましてくださることを祈る。

急性胃腸炎ということだったが、胃に穴が開き出血していたということで

緊急手術を受けていた。







「さっちゃん・・・」





思わず、零れ落ちてしまった。

何年も胸の奥底にしまいこんだ名前。





すると、ピクリと奥様の指先が動いた。

はっと顔をあげて、様子を伺うとゆっくりと奥様の瞼が持ち上がった。




「・・・駿・・・」





その声で、その名前を呼ばれたのもひさしぶりだった。

意識が戻って嬉しいのとごちゃ混ぜで涙がこみ上げてくる。
< 20 / 30 >

この作品をシェア

pagetop