Vrai Amour ~駿の場合~
点滴の針が刺さったままの細い腕がゆっくりと伸びてきて

きれいに整えられた指先が私の頬をゆっくりと拭った。

奥様にそうされて、初めて自分が泣いていることに気づく。




「・・・もう、遅いかしら」



一瞬何のことだかさっぱりわからなかった。


「・・・こんなにおばさんになっちゃって・・・」


奥様は目に涙を溜めながら微笑んだ。


「え・・・あ・・・」


思えば奥様を想いながらすでに30年以上が過ぎている。

私ももう46だ。

執事という仕事のおかげで身体は普通の方よりは強くできているものの

私もすっかりおじさんになっていた。




「しかし、秋緒様は・・・」



そう尋ねると、奥様はゆっくりと首を横に振った。
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