それから。〜不機嫌な先輩と不器用恋愛〜


根岸先輩に手を引かれながら、走る。走る。走る。


路地裏に逃げ込んで、ビルとビルの間に体を隠した。


数十センチの隙間に、二人が入ると、体が密着してしまって。


ただでさえ肩で息をするほど呼吸が乱れているのに、さらに心臓までどきどきと大きな音を立てている。


根岸先輩は、自分の体でわたしを隠しながら、通りの気配に細心の注意を払っていた。


その真剣な表情に、胸がずきんとした。


今までに感じたことのない、ずっしりと重みのある、痛み。


どきどき、という鼓動が、ずきんずきん、と痛みを伴った鼓動に変わる。

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