それから。〜不機嫌な先輩と不器用恋愛〜


「……だけど、できなかった。

 お前の顔ばっか浮かんできて……そんなこと、できなくて、すぐに部屋を飛び出した」


「じゃあ、あの人の言ったことは……」


「嘘だ。俺はあいつを抱いてなんかいない」


……あの人のことを抱かなかったにしろ。


複雑な気分だった。


あの人を一瞬でも頼ろうとしたことは、事実だったから。


……嘘でもよかった。


あいつのところへは行っていない、と言ってほしかった。


「……わかんない」


「え?」


「先輩のこと、すごく好きです……すごく……なのに……」


「なのに?」


「先輩が、一瞬でもあの人を頼ったことを……わたし、受け入れられなくて……先輩のこと、好きなはずなのに……わたし……」


「……」


根岸先輩は、わたしを思いきり抱きしめた。


息ができないくらい強く。


壊れちゃうんじゃないかって思うくらい、強く……。





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