それから。〜不機嫌な先輩と不器用恋愛〜
今まで外観は何度も眺めてきたそのビルに、初めて足を踏み入れた。
入口近くにある店舗案内板を見て、せめて洋食屋の名前くらい聞いておけばよかったと後悔した。
けれど、幸い洋食屋は一件しか入っておらず。
ああ……よかった。
階段をすり抜け奥に進むと、その店はあった。
洋食屋マロン。
マロンって……なんだかかわいい名前。
ところが木目調の扉には準備中の札がかけられていた。
会いたい一心で来てしまったから、準備中の札に、あからさまに落胆してしまった。
それでももしかしたらいるかもしれない、と、わずかな希望を抱きながら、取っ手に手をかけた。