それから。〜不機嫌な先輩と不器用恋愛〜


「あの……どうして、描かなかったんですか?」


「……人と向き合うのが嫌だ、って言ってた。人を好きになれないんだ、って」


それを聞いて、根岸先輩の家庭の話を思い出した。


男癖の悪いお母さんと、根岸先輩に暴力を振るったお母さんの交際相手の男の人のことを。


それと同時に、自分のことも考えた。


人と向き合うのが嫌だった人が、わたしと向き合ってくれたということ。


それがどれだけ大変なことだったのか。


少し想像するだけでも、涙が出そうになる。


本当に自分なんかでいいのか、とまだ信じられない気持ちになる。


すると、みさと先輩はふとわたしに向き直り姿勢を正した。

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