それから。〜不機嫌な先輩と不器用恋愛〜
「先輩の浴衣姿も見たかったな」
ひなはジーパンにTシャツというあまりにラフな俺をちらりと見て呟いた。
『純、浴衣着るんだったら貸してやるけど』
おやじさんが気を回してそう言ってくれたけど、いいや、と断った。
こいつに浴衣を着て来いと言わなかったのも……頭の片隅にレイの言葉があったから。
ひなが浴衣で来るのか、普段着で来るのか。
馬鹿らしい、ひなはまだガキだ、と思いながらも俺は試していた。
が、いつもどおり無邪気なこいつを見て、レイの言葉に踊らされた自分に盛大なため息をつかずにはいられなかった。
俺って、馬鹿。
「行くぞ」
ひなの手を握り、滑稽(こっけい)な自分をごまかした。