狂涙。
序章 狐と月
傷だらけの体にボロボロの服。
血が流れすぎているのか、うまく頭が働かない。
ここは一体どこなのだろうか?
兄はうまく逃げれただろうか?
ただ分かるのは、 肩に当たる雨が冷たいということ。
体はちゃんと震えているのに、何故か寒いとは思わなかった。
このまま死ぬのかな。
嗚呼、でもこれでいいのかもしれない。
私は望まれた子じゃないから、死んだ方が両親は喜ぶのかな。
はっ、と自虐的な笑いを零す。
雨が傷口に突き刺さる。
痛い、痛い。
だから゙ヒドは嫌いなんだ。
自分勝手で、何もできないくせに大きな口を叩いて、私達゙灰狐゙のような妖怪を見て「気味が悪い」「死ね」とほざき、容赦なくいたぶる。
゙ヒドなんか…゙ヒドなんか殺してやる!
その時、上から声がした。
「…風邪を引いたらいけまへん。さあ、早う中へ。ああ、酷い怪我や。僕が手当てするえ、ほら…」
肩にふわりと何かをかけられる。
うずくまっていた私は恐る恐る顔を上げると、そこにばヒドが立っていた。
一瞬恐怖と怒りがこみ上げてきたが、もう反抗する力などなかった。
壁をつたいながらフラフラと立ち上がると、ふと目があってしまった。
その目は先程私と兄を痛めつけだヒドのものとはかけ離れた、全く別のものだった。
綺麗な銀の瞳が月の光を浴びて優しく輝いていた。
いつの間にか雨はやんでいた。
「歩ける?」
そう聞かれ、目を見つめたまま少し首を横にふる。
「おぶったるえ、おいで。」
私が控えめに背に乗ると、゙ヒドは歩きだす。
その背中が温かくて、妙に安心して、頬に涙が伝った。
運命の相手に初めて出逢ったのは、感情を失った私が初めて涙を流した夜だった―――。
〇第1章【狐と月】〇