優しいなんて、もんじゃない
うん、と呟いた自分の声は情けないことにも少しばかり震えていて。まだ滝さんが来るかも分からないのに、緊張し過ぎだろう私。
落ち着けと言い聞かせながら、幾度となく弾いてきたグランドピアノの元へ歩く。
―――でも、もう時計の針は後10秒で21時を指す。ここまで来れば、恐らく滝さんは来ないだろうと安堵する気持ちもある。
……よくよく考えれば、滝さんみたいな多忙な人がどこぞの小娘の演奏を聴く為だけに割ける時間もないだろう。
そうだ。来るわけがないんだ。
次第に落ち着いてくる心に、数回小さな深呼吸を繰り返して椅子へと腰掛ける。
…よし、落ち着いてきた。
鍵盤の上に指を置き、今まさにそれを叩こうとした――――――その時。
カランカラン、と心地良いカウベルの音が来客を知らせる。
ピタリ、動きを止め開かれ外気を店内へと迎え入れるドアに視線を送る。
「っ、」
心臓が、止まるかと思った。